コラムColumn

2024年03月30日

麻しん(はしか)について

どんな病気か

麻しんは麻しんウイルスを介して感染する感染症で、感染力は非常に強く、感染経路は飛沫感染、空気感染、接触感染です。
免疫を持たない人が感染すると10-12日の潜伏期間を経て発症します。発熱、結膜の充血、咳などの上気道症状、全身の皮疹などを伴います。肺炎や中耳炎を合併しやすく、まれに脳炎を合併します。先進国でも1000人に1人程度が亡くなることがあります。

 

国内の流行状況

昭和の前半まで、麻疹はありふれた病気でした。日本でワクチンの定期接種が始まった1978年以前はほぼ全員が子供の頃にかかっていました。
1999年4月からは1歳の予防接種が徹底されることで患者数は確実に減っていましたが2000年ごろまでは毎年1万人以上が罹患し、年間20-30人ほどがなくなっていました。
2007年以降は追加接種の実施による2回接種の徹底が図られるようになり、2008年以降、患者数は激減しました。
2009年以降は400-700人を推移しています。(図)2015年にはWHOから日本は「麻疹排除状態」との認定を受けました。それ以降の流行は国内発生ではなく海外からの持ち込み例がほとんどです。

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麻疹年間発生数のサムネイル

2020年以降はコロナパンデミックによる外出制限やマスク着用の徹底によって麻疹の感染者は年間10名以下に抑えられていました。

2023年5月以降、海外との行き来が盛んになり、マスク着用も義務ではなくなったため、昨年は年間28名の感染が認められました。2024年に入り、3月21日時点で全国で20名(東京都で6名)の患者が確認されており、昨年よりも早いペースで感染が広がっており、再び流行が懸念されています。(まだ流行状態に入ったわけではありません)

 

麻疹ワクチンと年代別の免疫状況

麻疹ワクチンは1978年10月から定期接種(1歳〜5歳までに1回の接種)が導入され、
2006年からはMR(麻疹風疹)ワクチンとして、2回接種(1歳と小学校入学前1年間)が定期接種となりました。2008年〜2012年までは10代の感染を抑える目的で中学1年生と高校3年生に2回目の追加接種を行う措置が取られました。
各年代の接種状況(2023年8月時点)を示します。(予防接種に関するQ&A集2023より引用)

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麻疹ワクチン接種状況のサムネイル

これを見ると50歳以上の方(1972年10月1日以前に生まれた方)はワクチンは1度も接種していないことになります。ただ、その年代の方はほとんどの人が子供の頃に罹患していたと思われます。麻疹は終生免疫なので1度かかると2回かかることはありません。実際に50歳以上の方の罹患率は全体の7%で多くありません。

 

追加接種の必要性について

麻疹にかかったことのある人、MRワクチン(あるいは麻疹ワクチン)を2回打っている人は追加接種の必要はありません。ワクチンを0回あるいは1回しか打っていない人(または接種歴が不明な場合)は追加接種が必要です。麻疹の患者さんに接触した場合、72時間以内に麻疹ワクチンの接種をすることで、麻疹の発症を予防できる可能性があります。
50代以上の方はほぼ罹患していると考えられますが、不安な場合は抗体検査を行います。検査結果によって接種するかどうかを医師と相談してください。検査や予防接種は全て自費になります。

(表)麻疹抗体検査方法と追加接種の必要性について

あと2回接種が必要 あと1回接種が必要 今すぐの予防接種は不要
EIA法(IgG) 2.0未満 2.0以上16.0未満 16.0以上
PA法 1:16未満 1:16,1:32,1:64,1:128 1:256以上
中和法 1:4未満 1:4 1:8以上

(環境感染学会「医療従事者のためのワクチンガイドライン第3版」より)

 

ワクチンの不足と優先順位について

本年1月に麻疹ワクチン供給を行なっている3社のうち1社である武田薬品工業株式会社は一部ロットの自主回収を発表しました。これによりワクチンはギリギリの本数で供給されていましたが麻疹流行の兆しを受けて、定期接種以外の年代でワクチン接種希望者が増えたため、現在ワクチン供給は不足しており、定期接種のお子さん(1歳、年長)の分も確保できない状態です。
当院としては、現在最もワクチンが優先される集団は ①定期接種のお子さん(特に1歳のお子さん) ②麻疹患者の接触者と考えています。それ以外の年代で接種希望の方は、安定供給されるまでお待ちいただけると大変ありがたいです。